エビベジ野菜哲学

野菜の本当のおいしさは、どこに行ったのか?

世に流通している野菜は、短期間にあるサイズにつくることを要求されることが多く、見た目、価格を重視して「味」という視点が欠けている気がしていました。世の中の人は野菜においしさを求めていないのか、不思議でした。

私たちが昔から当たり前のように食べて味わってきた、季節ごとに感じる野菜の味、香りはどこに行ってしまったのか、その疑問が多種類の野菜をつくるきっかけでした。つくり始めて気づいたのは、早く育てようとすると、野菜が本来持つ味が出てこないということ。ならばゆっくり育ててみようと研究を重ねるうち、「水加減」が生育や味の変化に影響することを発見しました。

野菜畑の画像1
水加減をして、ゆっくり育てると、おいしく育つ。

たとえばかぶ、水をやり過ぎるとパサパサになってしまい、逆に水を控え、土が白く乾いているような状態にしておくと、みずみずしい玉ができるのです。水を与えないと、一生懸命土の中の水を探しまわり、自分の中に蓄えようとするのです。ただ、ぎりぎりまで水を与えないというのは、タイミングを逃すと枯れてしまう、普通より長く育てていますから、そこまで待って出荷できない事態は本当に断腸の思いです。

ひとつひとつの野菜にふさわしい育て方。

多くの野菜が水を控え、時間をかけて育てると、味、香り、歯ごたえ、みずみずしさが違ってきますが、水をしっかり与え、温度・湿度管理を十分にしないとおいしく育たない、きゅうりのような野菜もあります。つまり、ひとつひとつの野菜にふさわしい育て方を探し、追求して、最高の状態の野菜に育て上げなければなりません。手間も時間も非常にかかります。365日、丹念に観察し、微妙なさじ加減で、土に向き合い、野菜を育てています。

野菜畑の画像2

海老原ファームには、他の農家にある機械がほとんどありません。機械でつくれば大量にでき、効率的で楽です。でも、そうやってつくったものがどんな味になるのか……。だからうちでは大人数のパートさんと一緒に人海戦術で手づくりで、丹精込めておいしい野菜を栽培しています。

気がつけば、100種類以上の野菜を栽培。

やがて、料理人の方から私の野菜をほめて頂くようになり、それがうれしくて、もっとおいしい野菜づくりを目指すようになりました。求められるままに、野菜の種類を増やし、自分でも工夫し、試行錯誤をしながら栽培、新しい野菜、身近な野菜の品種を増やすなど、気づいたら100種類以上の野菜をつくっていました。

料理人や野菜好きの方々と出会い、さらにおいしさを追求。

あるとき、「ギリークラブ」の渡辺幸裕さんが、うちの野菜とスーパーの野菜の食べ比べの会を「服部学園」で開催してくれました。実際にうちの野菜を味わってくれる参加者の皆さんの表情を見ても、おいしい野菜をつくる意味があるのだと確信しました。ここから、飲食界の達人やおいしい野菜を求める消費者の方と出会い、交流が始まっていきました。料理人や消費者の方々から多くの刺激を受け、どんなことが求められているかがわかり、さらなるおいしさを追求するようになりました。「ホテルニューオータニ」の中島眞介取締役調理部長ならびに太田高広統括料理長に私の野菜を認めていただき、「極サラダ」として、特別メニューに加えて頂き、野菜をおいしく食べるためのドレッシングまで考案して頂いたことは、本当に感激の極みです。

海老原ファームの野菜、だから、エビべジ。

またギリークラブの渡辺さんより「エビべジ」というニックネームも命名して頂き、いまやこれが海老原ファームの野菜の代名詞となり、ネットなどでも「エビべジ」と親しまれるようになりました。サラダを食べた方から連絡が入り、メディアで取材して頂いたり、紹介して頂いた方が、野菜の頒布会に入って頂いたりしています。

また、料理研究家の方がエビべジを使った料理をブログで発表して頂いたりして、エビべジ・レシピも増えてきました。手間ひまをかけて、多種類の野菜をつくり続けることは、コスト面では厳しいものがありますが、その価値をわかって頂ける方と一緒に「おいしい野菜」にこだわり続けて行きます。

2011年3月11日の東日本大地震、実は栃木もかなり被害があったのですが、その時ご 縁の出来た「料理ボランティアの会」に参加される各ホテルの総料理長の皆様と懇意になり、帝国ホテルの田中健一郎総料理長(当時)から頂いた言葉「こんなに味の濃い野菜はフランスにもない!」は、本当にうれしかったですし、励みにもなりました。そして次々とトップ料理人の皆様に美味しさを認めて頂き、今では多くのホテル、レストランでエビベジをお使い頂くようになっております。

多くの人においしい野菜を届けたいから、仲間を募る。

味にこだわる野菜を届ける為には勿論一軒の農家だけでは足りません。エビベジは手間がかかる農法ですので、量を多くする為には人手も必要です。おいしい野菜を作る農家がどんどん育ってくれば、料理人の方にも、食べ手の方のご要望にお応えできます。日本全国、様々な場所にいる志の高い生産農家の方と連携し、ご一緒していければと思っています。
日本のおいしい食卓のために。このような“美味しい野菜作り農家連合”のような動きや組織は今までなかったと思います。ある意味、日本の農業の新しい形としてモデルケースになって行きたいと考えています。身震いするほど興奮し、私自身期待しています。ご縁が出来た料理人、料理研究家、流通業界、大学の先生、おいしいもの好きな方、サポートしてくれるクリエイターの方……みなさんの応援をいただいて、少しずつ前に進んでいるところです。日本のおいしい食卓のために、頑張って行きます。

海老原秀正

海老原ファーム一同

左から、麻美、寛明、海老原秀正と陽奈汰、美憂、智子

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